漫画好き(どころか一時期漫画家を目指したことが最近判明した)伯母曰く「B級映画」なビデオを10本ほど借りて鑑賞中。
お婆ちゃんとおばさん10人ほどがバス旅行中故障で遭難するけど、無人の家占拠して数日間身の上話とかしながら
(本人は必死なんだろうけど傍目にはのんびり)サバイバル生活するやつやら、カンボジアポル・ポト派が大暴れ
(具体的には、毛沢東の言うこと実行して餓死者出しまくったり、国民虐殺しまくったり)
するやつやら、大学のラグビーチーム一行40人くらいが飛行機乗ってて雪山に墜落、
「俺が死んだら俺を食って生き延びてくれ。ただし、不味いっていうなよな」
とか色々あって10人くらい生還、みたいな感じ。ドラマ系はレンタルビデオ屋じゃあまり借りない傾向があるから、
自分の見ない方向性の作品も、ある程度チョイスして放送してくれるBSという存在を今更見直した。


そんで、先日見て特に面白かったのが「さらば、わが愛/覇王別姫」という香港、中国製作の映画。
子供を持て余した娼婦が京劇一座に子供を引き取ってもらいに来るところから始まって、その子は
何かと庇ってくれる兄貴分の男の子と仲良くなり、成長して捨て子は女形、兄貴分はその相方として
京劇のトップスターコンビになるんですが、ノリノリの兄貴分はその勢いで美人のお嫁さんもらいます。
そしたら、密かに兄貴分に思いを寄せていた女形の兄さんは面白くない。
女形(♂)→兄貴分(♂)→嫁(♀)
つまりこんな三角関係発生。この図式だけ見ると「うほっ」って感じですが、女形兄さんの美しさと
優美な動作、奥ゆかしさで全然「うほっ」に見えないんですね。逆に、美人のお姉さんから「かかあ」にジョブチェンジする嫁は
芝居なんぞやめて地に足つけて働けだの言うのに対し、女形兄さんは美しさも生き方もずっと変わらないんです。
まあ、なにがなんであろうとホモは生理的に受け付けない人と京劇独特のメイクが気持ち悪く写る人には
薦めませんし、見るべきじゃないので見ないほうがお互い幸せになれると思います。
女形兄さんの切ない健気さだけでもドラマとしては面白いんですが、この作品のキモはもう一つの軸となる
「京劇」という文化の時代による翻弄されっぷりです。
清末期→日本軍→中国国民党中国共産党(→文化大革命
と支配者が激しく変化し、それぞれにおいて京劇文化への扱いが違うため、
存続のためには後援者を必要とする京劇は支配者の要請に応えねばならず、
政変のたびに前支配者に尻尾を振っていたと責められるんですね。
よく知らんけど、京劇は客相手に歌やら踊り見せてればいいもんじゃなく、政治宣伝も兼ねてるとかどうとか。


<以下特にネタバレ>


兄貴分は嫁も食わさにゃならんし、時代の変化に多少柔軟性を見せてスイカ屋やったりするんですが
芸術家肌の女形兄さんは愛も一途だけど生き方も強烈な筋が一本通っていて、劇が出来ないくらいなら
阿片中毒生活しちゃうんですね。内心、兄貴を嫁にとられててつまんないし。
クライマックスは中国屈指の面白イベント大躍進政策の後の文化大革命
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%BA%8D%E9%80%B2%E6%94%BF%E7%AD%96
「労働者のため」という理由つければ何しても許されそうだったり、みんな大好きなフレーズ「愛国無罪」の元ネタのアレです。
二人の弟子は伝統の継承よりも労働者のための京劇を目指して上からも気に入られるようですが、
頑なに伝統派の女形兄さんは、野蛮人全開な革命無罪の人達にとっ捕まって
共産主義者が大好きという印象のある「自己批判」の強要をさせられるんですが頑として聞きません。
でも、ここで兄貴は嫁と女形兄さんの後ろ暗いところを喋っちゃうんですよ。
その時の女形兄さんは兄貴を思っての行動だったのに。切ねえ。
そして、終劇へ。まじ切ない。
キョンシー、カンフー、2丁拳銃しか興味なかった人間としては、香港と中国でこんな映画作れんだ、というのと
文字でしか知らなかった文革の気持ち悪さとかが再現されてて驚いたという点でも、非常に見てよかった。
面白かったです。


暇だったらレンタルしてみて
amazon:B000657NB8
amazon:B000EWBUMQ
amazon:B000BM6HMC